採用候補者に問題点がないかを調べるバックグラウンドチェック。
日本の企業には実施に慎重な傾向も見られます。一方で就職希望者の背景は多様化し、外国人の就労者も増加しています。
今回はバックグラウンドチェックの意義と留意点、そして各国の実施状況を見ていきます。
採用候補者の身辺や経歴に問題点がないかを確かめることをバックグラウンドチェックといいます。
学歴に虚偽がないか、職歴に虚偽がないか、これまでの仕事ぶりに問題はないか、犯罪歴や逮捕歴はないか、自己破産歴はないか、反社会勢力との関係性はないか、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下、SNS)などでの不適切発言はないか、などを調べます。
リファレンスチェックをバックグラウンドチェックに含めることがあります。
リファレンスチェックとは、採用候補者の仕事ぶりや人柄などを知るため、前職の上司、同僚、得意先などに聞き取りをすること。本人の仕事の能力や姿勢を確かめることが主目的です。
採用者が働きだしてから発覚しうる問題のリスクを未然に把握し、不採用という形で事前対処できる点でバックグラウンドチェックは重要です。
採用後の解雇より手続きが容易なのは明らかでしょう。
米国での実施率は95% ―― 先進地域の北米
現状、すでにバックグラウンドチェックを実施されている企業もおありと思います。
ただし、日本の企業は概してバックグラウンドチェックに慎重な傾向にあるとされます。
そこで、ここからは世界の状況に目を向け、各国で企業がバックグラウンドチェックをいかに捉え、行っているかの現状を見ていきたいと思います。
人材不足から外国籍の人たちを雇用する機会が日本でも増えてきました。
国や地域で文化や法律が異なるため、何をどこまでチェックしているのかも国により異なります。
外国籍の人材を採用しようとする際のご参考にもなればと思います。
なお各国とも本人同意が前提となるため、その記述は省きます。
先進国の米国では、プロフェッショナル・バックグラウンド・スクリーニング協会(PBSA)の2021年情報によると(図1)、調査対象企業のうち米国内所在企業のバックグラウンドチェック実施率は95%。実施内容は「身元確認」81%、「雇用確認」72%、「運転記録」75%、「性犯罪者登録簿」68%、「薬物・アルコール検査」65%、「学歴証明」64%、「専門職資格証明」60%、「クレジット・金銭」51%の8項目が半数超えとなっています。
また、実施理由は、「雇用者や顧客を守るため」77%、「雇用の質を高めるため」51%、「企業の評判を守るため」40%の順となりました。
企業運営や雇用活動のため、バックグラウンドチェックの実施を前向きに捉えているようすがうかがえます。
一方で、米国では健康調査・医療スクリーニングは原則禁止とされています。
個人情報保護に関する主な法律として公正信用報告法(FCRA:the Fair Credit Reporting Act)があり、雇用主ができることとできないことを定めています。
州にも法律があり、たとえばフロリダ州には、過去の雇用主が未来の雇用主に従業員に関する情報を開示することを許可する法律が存在します。
カナダでは、ADP社の情報では、「雇用主のできること」として、政府発行文書による身元・住所の確認、学校を通じての学歴の確認、前職企業を介しての雇用履歴の確認、州・国の犯罪歴チェックの発行、提供された推薦状の正当性の確認、支払い履歴に関する信用履歴の確認、違反行為の登録有無を確認するための運転記録の確認を挙げています。
ほか、SNSでの発言の確認も典型例に挙げる企業も。他方、禁止事項には、労働組合加入歴の確認、政治思想の調査、薬物・アルコール検査があります。
関連する法律として、連邦プライバシー法(the Federal Privacy Act)、情報の自由・プライバシー保護法(the Freedom of Information and Protection of Privacy Act)があるほか、雇用主は、個人情報保護・電子文書法(the Personal Information Protection and Electronic Documents Act)に従う必要があるとされます。
法整備などの変化もあり ―― 発展途上のアジア
ベトナムは、日本での外国人就労者数最多の国。
現地では定期的に応募者のバックグラウンドチェックを行っていることを、国際法律事務所メイヤー・ブラウンが伝えています。
またマルチプライヤー社によると、「最もよく実施される採用前のバックグラウンドチェック」には、身元確認、詳細な学歴の確認、職歴の調査、リファレンスチェック、金銭面の信用調査、永住地かどうかに関する居住地の調査があります。
インドでは、メイヤー・ブラウンの報告書によると、雇用主は定期的に応募者のバックグラウンドチェックを行っています。
ただし、データ保護の観点から、特定の調査では応募者から事前に同意を得るといいます。
米ディール社の情報では、インドでよく行われるバックグラウンドチェックに犯罪歴の有無、職歴、学歴、リファレンスチェック、SNSでの発言の確認があります。一方、金銭面での信用調査や薬物・アルコール検査は、さほど行われていないません。
インドでは2023年、デジタル個人情報保護法(Digital Personal Data Protection Act)が成立し、デジタル個人情報について、合法的な目的にかぎって処理できることなどが定められました。
中国では、1990年代以降の市場経済発展や、個人間の就職競争の激化で、バックグラウンドチェックの需要や実施が増えてきたようです。
ディール社によると、よく行われるバックグラウンドチェックとして、学歴、金銭面の信用履歴、履歴書虚偽の有無、SNSでの発言の調査やリファレンスチェックがあり、経済的履歴の確認もよく行われるようになったといいます。
信用調査できるのは財務関連の重職者のみに制限されているといいます。
また、遺伝関連情報の調査は違法。中国には、行政が個人の「無犯罪歴証明書」を発行するしくみがあるものの、雇用主がバックグラウンドチェックで採用候補者の犯罪歴の有無まで調査することはさほどありません。
法関連では、個人信息保護法(PIPL:Personal Information Protection Law)があり、複数ある個人情報保護の関連法の中心と位置づけられています。
取り上げたベトナム・インド・中国を含むアジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation)加盟各国のバックグラウンドチェック状況について、ゴーグローバル社が2024年の記事でまとめていますので紹介しておきます(図2)。
包括的な法令と多様な風土と ―― 一体視できない欧州
欧州には欧州連合(EU:European Union)における個人情報保護の包括的法令として、一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)があり、人種・民族的出自、政治的意見、宗教的・哲学的な信条、労働組合への加盟、遺伝、健康などの情報を保護の対象としています。
フランスでは、雇用主が定期的に応募者のバックグラウンドチェックを行っています。
ただしそれらの調査は、応募者がその企業で担うことになる職務やスキルに関連している必要があります。
フランスでよく行われるバックグラウンドチェックは、リップリング社の情報によると犯罪歴、職歴、学歴、運転履歴、破産履歴、民事記録などの調査であり、リファレンスチェックも同様にされています。
フランス共和国データ保護機関(CNIL:Commission nationale de l’ informatique et des libertés)発行のガイドラインや、国の労働法やデータ保護法への留意が必要です。
英国では、スターリング社の2018年情報によると(図3)、78%がバックグラウンドチェックを実施。
率は増加傾向にあると見られます。
また、バックグラウンドチェック実施企業の実施理由は「コンプライアンスの向上または遵守のため」31%、「職場の安全とセキュリティ強化のため」21%、「詐欺や他の犯罪行為防止のため」11%が上位の三つでした。
英国でよく行われる調査としては、前述のディール社によると犯罪歴の有無、職歴、就労資格の有無、役職に対して学歴・資格要件を満たしているかがあり、ほかにリファレンスチェックも同様に行われています。
得ようとする情報は求職者が就くことになる職務や役割に関連している必要があります。
犯罪歴の調査については、「前歴開示・前歴者就職制限機構」(DBS:Disclosure and Barring Service)という政府外機関の照会サービスがあり、雇用主は求職者の同意を得たうえで、求職者の犯罪歴などの情報取得を申請できます。
英国はEU から離脱しましたが、欧州連合の一般データ保護規則(GDPR) に基づいた、英国一般データ保護規則(UK GDPR:United Kingdom General Data Protection Regulation)を2021年1月より施行しています。
リスク対策の一手に、導入・充実化の検討を
立ち返って、日本の企業は概してバックグラウンドチェックに慎重な傾向にあると前述しました。
その理由としては、就職差別につながるおそれとの兼ね合いや、性善説に基づいた人物評価のあり方などがあるかもしれません。
とはいえ近年、求職者の国籍や背景は多様化し、また、選考はオンラインが増加しています。そして何より、企業がステークホルダーから求められる人的コンプライアンスチェックの機運はますます高まっているといえます。
これからの時代の採用におけるリスク対策の一つにバックグラウンドチェックの導入や充実化を検討してはいかがでしょうか。
具体的な進め方などでご不明点があれば、ぜひご相談ください。
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